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柴田洋弥HomePageは知的障害者・発達障害者への支援の在り方を提案します。

知的障害者・発達障害者の意思決定支援を考える

障害者扶養義務の経過と課題(障害者自立支援法を迎えて)

「障害者扶養義務の現状と課題(障害者自立支援法を迎えて)」は、2002年から2004年までの間に全国社会福祉協議会の心身障害児者団体連絡協議会と身体障害者団体連絡協議会が合同設置した「扶養義務問題研究プロジェクトチーム」での研究をふまえて「扶養義務制度改革への問題提起」と題して筆者が行った発表を基に、障害者自立支援法の施行を迎えつつあった20053月の時点で、障害者の扶養義務についての課題の明確化を試みたものである。
 障害者自立支援法は20124月より応能負担に移行し、現在は「障害者総合支援法」が衆議院で可決され、参議院の審議を待っている。また昨今、生活保護をめぐって様々な動きがあり、精神保健福祉法の保護者規定も障害者権利条約に沿って見なおしを求められている。
 本稿を私の旧ホームページに長らく掲載していたが、多くの方が閲覧されていたようである。本来ならば新たな状況を踏まえて加筆・修正すべきであるが、今はその余裕がないため、ホームページの再開に当たりとりあえず旧文章のまま掲載することとしたい。
                                         201263日 柴田洋弥

 障害者扶養義務の現状と課題
(障害者自立支援法を迎えて)


                                       2005.3 日本知的障害者福祉協会政策委員長                                               柴田洋弥

1.はじめに

障害者福祉は、2003年4月より措置制度から利用契約制度である支援費制度に移行した。さらに2006年1月からは、同じ利用契約制度ではあるが、障害者自立支援法(以下「自立支援法」という)に移行する見込みである。
 支援費制度では、利用者本人と扶養義務者の「応能負担」があるが、利用者が成人の場合、扶養義務者の範囲から親・兄弟が除かれている。
 自立支援法では利用者の「定率負担」がある。扶養義務者負担はないが、利用者負担の軽減を受けるためには同一世帯員の所得が勘案されるため、結果的に親・兄弟の負担が生じる可能性がある。
 戦前の「家」制度は戦後新憲法の下で廃止されたが、障害者を独立した人格として認めず、家族が扶養すべきであるとする意識がまだ根強く残っている。今後さらに障害者福祉の制度改革が予測される中で、民法や生活保護法との関係を含め、障害者の扶養義務問題について、関係者の共通理解が求められる。
 全国社会福祉協議会に所属する心身障害児者団体連絡協議会と身体障害者団体連絡協議会は2002年から2004年まで「扶養義務問題研究プロジェクトチーム」(委員長:岩志和一郎・早稲田大学法学部教授) を合同設置(知的障害者福祉協会からは大島兼常務理事と筆者が参加)し、2004年7月7日に「第25回障害者地域生活支援システム研究会議」を開催した。
 本稿は、同チームでの研究をふまえ「扶養義務制度改革への問題提起」と題して筆者が行った発表を基に、障害者の扶養義務について、現時点での課題の明確化を試みるものである。

2.扶養の概念整理

近代社会は自己扶養が原則である。「扶養」とは、経済的に自立できない者への他者による経済的扶助である。扶養は、私的扶養と公的扶養に分類できる。

)私的扶養 
 (1) 法定扶養 
  @ 生活保持義務関係(自己と同一レベルの生活を保障すべき義務)。夫婦間及び親の未成熟子(義務教育終了以前の子)に対する扶養義務(民法752条・760)
    A 生活扶助義務関係(扶養権利者が要扶養状態にあり、かつ扶養義務者が扶養可能状態にある時、扶養可能な範囲内で扶養する義務)民法877条1項:直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。同条2項:家庭裁判所は、特別の事情のあるときは3親等以内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
  (2) 親族間の相互的扶け合い  民法730(直系血族及び同居の親族は互いに扶け合わなければならない)は、1962年に廃止の仮決定があった。
  (3) 扶養契約  負担付贈与(民法553)が多い。養子縁組等が該当する。
  (4) 信託(信託法) 

) 公的扶養
 公的な共助システムであり、拠出型と無拠出型がある。無拠出型は全額が税(行政)による負担である。拠出型は受給者(またはその使用者)による拠出と税による負担がある。
 また私的扶養と給付の関係では、私的扶養が優先する制度(私的扶養の限度を超える分を給付)と、私的扶養に優先する制度(私的扶養に関係なく給付)に分かれる。
  (1) 生活保護 無拠出型。現金給付(一部現物給付)保護の補足性(生保4)により、支給より私的扶養が優先する。
  (2) 措置費 無拠出型。サービスの現物支給であり、受給時に利用者負担として本人負担と扶養義務者負担がある(応能負担)。私的扶養が優先する。
  (3) 支援費 無拠出型。サービス利用料の給付であり、サービス利用時に利用者負担として本人負担と扶養義務者負担がある(応能負担)。私的扶養が優先する。
  (4) 障害者自立支援給付 無拠出型。サービス利用料の給付であり、サービス利用時に利用者負担(定率負担)がある。扶養義務者負担はない(利用者負担軽減時にあり)。私的扶養に優先する。
  (5) 公的保険 拠出型。介護保険・健康保険はサービス利用料の給付であり、サービス利用時に利用者負担(定率負担)があるが、扶養義務者負担はない。雇用保険・労災保険は現金給付である。いずれも私的扶養に優先する。
  (6) 公的年金 拠出型。国民年金(障害基礎年金は無拠出)・厚生年金がある。現金給付。私的扶養に優先する。
  (7) 各種手当て 無拠出型。現金給付。特別障害者手当等、所得制限がある場合が多く、私的扶養が優先する。
  (8) 福祉サービス補助金 無拠出型。サービス現物支給が多い。私的扶養に優先する場合が多い。

) 私的共助
 私的扶養に基づく共助として、契約による養老年金、生命・疾病保険、火災保険、自動車保険等がある。全額拠出型であり、通常は税による負担がない。

3.民法と扶養義務

 障害者福祉サービスの利用者負担、特に扶養義務者負担を論ずる際に、民法の改正が不可欠であるとの論調が時折みられる。しかし各福祉法等は、民法の定める範囲を超えて扶養義務者を拡大できないが、民法の範囲内で扶養義務者の範囲を狭めることもできるし、なくすこともできる。例えば支援費制度では、配偶者及び子に限定している。従って障害者の扶養義務者負担に関しては、民法改正の緊急な必要性はない。しかし、民法には次のような課題があることを確認しておきたい。
 (1) 夫婦間及び親の未成熟子に対する生活保持義務(752条、760)
 各福祉法での規定は別として、民法としては存続が適当であろう。
 (2) 成年子と親との相互扶養義務(877条1項)
 各福祉法は別として、民法では存続が適当であろう(廃止意見もあり)。ただし幼児期に養育義務を怠った親への扶養は免除すべきであろう。
 (3) 直系血族及び兄弟姉妹の相互扶養義務(877条1項)
  祖父母と孫以上及び兄弟姉妹間の扶養義務は廃止し、家裁の審判により扶養義務が発生するように改めるべきであろう。
 (4) 3親等内の親族の扶養義務(877条2項)
 廃止、あるいは家裁審判で扶養義務を負わせる範囲を制限すべきであろう。
 (5) 親族間の相互的扶け合い(730)
  この条項は家制度の名残であり、昭和37年に廃止の仮決定があった。廃止すべきである。
  (6) 親族の範囲(725)
 6親等までが親族であるが、扶養義務の範囲を定める条項ではないので、不問に付してよいであろう。
 (7) 扶養義務と介護の区別
 扶養義務は費用負担の問題であり、実際の介護の義務を規定したものではない。介護は社会的に行うべきことの認識を広めることが重要である。

4.障害者自立支援法と扶養義務

) 支援費制度における利用者負担と扶養義務
 支援費制度は応能負担(所得に応じた負担)であり、支援費支給より私的扶養が優先する。
 福祉サービス利用料(支援費基準額)を利用者本人が全額負担することを原則とし、低所得のために本人が負担できない分を扶養義務者が負担し、なお不足する額を市町村が支援費として支給する。当分の間、利用者本人負担の上限が設定されている。
 ただし扶養義務者の範囲は、利用者本人と同一世帯の配偶者・子に限定され、親・兄弟は除外される(利用者が20歳未満の場合は親も含む) 。知的障害者は一般的に配偶者や子がいないため、結果的に扶養義務者負担がない。
 旧措置費制度でも、施設利用については同様であったが、居宅支援については世帯単位の負担であったので、親・兄弟の負担があった(ただし知的障害者グループホームは利用者負担がない)。また障害児居宅支援には本人負担がなく、扶養義務者負担のみがある。

) 自立支援法における利用者負担と扶養義務
 自立支援法においては、介護給付及び訓練等給付について、利用者負担は10%の定率負担であり、かつ月額負担上限が設定される(29)
 給付が私的扶養に優先する制度なので、原理的には支援費制度より公的責任が重いが、所得保障が不十分なため実際は利用者負担が過重となる。
 扶養義務者負担はないが、利用者と同一世帯員の所得水準により利用者負担の上限額が定められるため、結果的に扶養義務者負担が発生する。この世帯員の範囲について、障害者団体には「成人の場合は利用者本人に限定すべきである」との意見が強い。
 障害者支援施設・ケアホーム・グループホーム利用者については独立世帯となるが、家族と同居の場合について、現時点で厚生労働省は「配偶者は生活保持義務関係なので国民感情として除外は困難。介護保険では子が負担する例が多いので、子の除外も困難。親・兄弟は支援費制度でも除外されていた経過を考慮する」としている。
 世帯員から親・兄弟が除かれれば、成人知的障害者の場合は、結果的に扶養義務者負担がなく、本人が低所得であれば利用者負担を軽減される可能性が高い。身体障害者の場合は、子の負担が生じることに問題がある。
 利用者が未成年(20歳未満)の場合は、定率負担について親の負担がある。障害児サービスについても同様。

) 実費負担
 支援費制度では、サービス種別によって支援費に含まれる生活実費(食費・光熱水費・日用品費・医療費等)の範囲は様々である。自立支援法では、これらの実費は利用者負担を原則としている。
 この実費負担の軽減に当たっても、世帯の所得が考慮されるため、扶養義務者負担が発生する。世帯員から親・兄弟が除かれれば、日中活動事業の昼食費(人件費分)等の負担軽減が受けやすくなる。

) 扶養控除
 成人障害者の場合、親・兄弟がこの障害者に関して税金の扶養控除を受けていても、支援費制度の扶養義務者から除外されている。しかし自立支援法への移行に際してはこれを見直し、親・兄弟が扶養控除を受けるのであれば同一世帯として扱うべきであるとの意見が政府内にある。この扱いについて厚生労働省では現在検討中であるが、同一世帯員として扱うこととなる可能性が高い。

) 居住地特例
 自立支援法では、障害者支援施設に入所する障害者の介護給付・訓練等給付を、施設所在地ではなく、入所前の居住地の市町村が給付する(19)。生活保護、国民健康保険についても同様の扱いとなる。またグループホーム・ケアホームについても、当分の間、同様の居住地特例が設けられる。施設・ケアホーム・グループホーム間で移行する場合も、最初の入所前の居住地に固定される。
 支援費制度でも同様の居住地特例があるが、知的障害者については「出身世帯」のある市町村が支援費を支給することとなっているため「親が扶養するのが当然」という印象を与えている。今回「入居前の居住地」に改められることで、知的障害者を親から独立した存在として認める機運が高まることを期待する。

5.生活保護と扶養義務

) 所得保障としての生活保護の活用
 障害者の所得保障が未確立な現状においては、成人障害者の自立生活やグループホーム・ケアホーム利用における所得保障として、生活保護を柔軟に活用すべきである。 生活保護は世帯を単位として適用されるが、個人を単位とすることもできる。
 一般に成人が親の世帯から離れて自立生活をする場合は「別世帯」となり、その収入が少ない場合は生活保護を受けることができる。ただし生活保持義務関係にある者(配偶者)がいればその扶養が優先する。また生活扶助義務関係にある者(直系血族および兄弟姉妹)が扶養できる余裕があれば、その扶養も優先するが、余裕がなければ扶養は求められない。
 成人障害者が自立生活する場合に、親と同一世帯とされ、生活保護を受けられないことが時々あるが、このような扱いは福祉事務所の無理解から生じており、改善を求める必要がある。

) 自立支援法と生活保護
 生活保護の実施機関は、要保護者の居住地の福祉事務所を管轄する市町村または都道府県である。
 支援費制度では、身体障害者療護施設の利用者は出身世帯とは「別世帯」であり、生活保護を受ける時の保護の実施機関は入所前の出身地である。その他の施設については、保護の実施機関は出身世帯の居住地であり、利用者はその属する出身世帯から「世帯分離」される。またグループホームについては、保護の実施機関はホーム所在地であるが、支援費の支給は出身世帯の居住地であり、ホーム利用者の生活保護適用が進まなかった。
 200510月より、障害者支援施設・ケアホーム・グループホームの利用者が生活保護を受ける時の保護の実施機関は、入所前の出身地に統一される(改正生活保護法843)。自立支援法の介護給付・訓練等給付と同様に、利用者は出身世帯とは独立の世帯となるので、生活保護を受けやすくなるものと期待される。
 
なおケアホーム・グループホームは住宅なので、本来はホーム所在地が居住地であるが、現状では地域偏在があるので、当分の間出身地を居住地とするのが妥当である。

6.精神障害者に関する扶養義務

 精神障害者について、扶養義務問題は以下の点で特に課題が大きい。

) 精神障害者についての保護者規定
 (1) 保護者となる者及びその順位は、@後見人または保佐人、A配偶者、B親権者、  C扶養義務者の内家裁が選任した者となっている(精神保健福祉法20)
 
(2)
保護者は、医師による疾患診断がされた時に必要となる。その役割は、扶養ではなく監督責任である。
 (3) 民法713(精神障害者の行為の免責)714(前条における監督義務者の責任)により、精神障害者の場合には保護者に責任が行く事がある。
 (4) 精神障害者の8割以上が家族()と同居している。理由は、@自立条件が地域にないこと、A保護者制度による家族保護への期待が強いことである。
 (5) 親・兄弟の高齢化により、保護者のなり手がない状態がある。
 
(6) 精神障害者の「保護者」規定を廃止し、成年後見制度と生活保護の活用等により、課題を社会化すべきである。

) 国民年金の世帯単位保険料納付義務
 国民年金については、平成15年4月より本人所得ではなく世帯所得での全額免除・半額免除の基準ができて、低所得障害者の同一世帯の負担が増えた。障害基礎年金受給者は保険料免除であるが、無年金者は免除とはならず逆に負担がある。特に精神障害者がこの影響を受けている。
 年金は個人単位で加入し受給するにもかかわらず、保険料の納付のみ世帯単位とするのは家制度への逆行である。元の本人所得での制度に戻すべきである。

 以上、障害者の扶養義務について現時点での課題の明確化を試みたが、誤りがあればご指摘願いたい。本稿が、関係者の共通認識と今後の改革に役立てば幸いである。

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