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柴田洋弥HomePageは知的障害者・発達障害者への支援の在り方を提案します。

知的障害者・発達障害者の意思決定支援を考える

意思決定支援と法定代理制度の考察

意思決定支援と法定代理制度の考察

障害者権利委員会一般意見書に適合する成年後見制度改革試論

 

2015112日 柴田洋弥

 

【1.はじめに】

障害者権利条約(以下「条約」という)は2006年に国連で採択され、我が国では2014219日に発効した(1)

近代市民社会の成立以来、判断能力に困難のある人の法的能力は不完全とされてきたが、条約は、これを、判断能力が不十分でも人は常に法的能力を有するとした。

また2014411日に、国連障害者権利委員会は、一般的意見1号「12条;法律の前における平等な承認」(2)(以下「一般意見書」という)を採択した。この一般意見書は、「代行決定制度」を廃止し、当該障害者(以下「本人」という)の不足する判断能力を意思決定支援で高め補い、本人が法的能力を行使できるようにする「支援つき意思決定制度」に転換するよう、締約国に求めている。

これにより、我が国の成年後見制度は、次の2重の課題解決を迫られている。

@運用面の課題 後見類型への偏重、公務員などの欠格条項、過重な費用負担、家庭裁判所の監督体制不備などの課題

A根本的な制度課題 類型的体系や行為能力制限などの、代行決定制度から支援つき意思決定制度への改革課題

 運営面の課題については、「成年後見制度利用促進法案」など改革が進む機運にある。

「意思決定支援」については、障害者総合支援法に関連する検討や、諸外国の取組みの紹介が行われているが、意思決定支援をつくしても、本人が独力でその法律行為を行えないときの法定代理制度の在り方は、明らかではない。

国連障害者権利委員会は、この間報告をした全ての条約締約国に「代行決定制度から支援つき意思決定制度への転換」を求める勧告を行っている。そのため、「一般意見書は代理決定を全て否定しているので、それに基づく保護制度は不可能である」という意見も聞かれる(3)

本稿は、障害者が他の者と平等に法的能力を有するという条約の基本理念に基づく立場から、一般意見書に適合する法定代理制度の条件を明らかにし、ニーズに応じた意思決定支援とわが国の成年後見制度改革についての試論を提示することを目的とする。

 

【2.代行決定から支援つき意思決定へ】

 

代行決定制度

一般意見書は、「代行決定」から「支援つき意思決定」へのパラダイム転換を求めている。para.27には、次の記述がある(4)。以下「para.」と表記する場合には、一般意見書の項目を指す。

27. 代行決定制度は、全権後見人、裁判所による禁治産宣告、限定後見人など、多種多様な形態をとり得る。しかし、これらの制度には、ある共通の特徴がある。すなわち、これらは以下のシステムとして定義できる。(i)個人の法的能力は、たとえそれが1つの決定にのみかかわりのある法的能力であっても、排除される。(ii)当事者以外の者が代行決定者を任命できる。しかも、当事者の意思に反してこれを行うことができる。(iii)代行決定者によるいかなる決定も、当事者の意思と選好ではなく、客観的に見てその「最善の利益」となると思われることに基づいて行われる(5)

これを要約すると、次の通りである。

【代行決定制度の定義】次のどの条件に該当しても、それは代行決定制度である。

@本人の法的能力を排除する制度。

A本人の意思に反して支援者を任命する制度。

B本人の意思と選好ではなく、客観的最善の利益に基づく制度。

国連障害者権利委員会では、条約についての報告を受けた全ての締約国に、この「代行決定制度」が残されていると批判をしている。

 

●法的能力と行為能力

para.12は次のように述べている。

12.(条約)122項は、障害のある人が生活のあらゆる側面において、他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認めている。法的能力には、権利保有者になる能力と、 法律の下での行為者になる能力の両方が含まれる(6)

国連による条約の採択以来、条約122項の解釈を巡って、障害者が有する「法的能力」は「権利能力」を意味するのか、「行為能力」まで含むのかという議論があったが、ここでは、「行為能力」も含むことを明確にしている。

1999年の欧州評議会「無能力成年者の保護に関する勧告」は、「法的能力は変動するので、機械的に完全に剥奪してはならない」としている。

2005年に制定されたイギリス意思能力法は、福祉・介護・医療における意思決定支援にまで対象を拡げた点に特徴があり、学ぶべき点が多いが、欧州評議会勧告と同様に、判断能力が不足するときの行為能力を否定した法体系である(7)

判断能力に困難のある障害者も、「法的能力」つまり「権利能力と行為能力」を有するという原理は、一般意見書が最も重要視する原理であり、障害者権利条約の本質である。代行決定制度はこの原理の否定であるからこそ、国連障害者権利委員会は、各国の代行決定制度を批判し続けているのである。

 

●意思能力と判断能力

para.13は次のように述べている。

13.法的能力と判断能力とは異なる概念である。判断能力とは、個人の意思決定スキルを言い、人によっても異なり、同じ人でも環境要因及び社会的要因など、多くの要因によって変化する可能性がある。これまで、判断能力と法的能力は明確に区別されてこなかった。判断能力の不足が、法的能力の否定を正当化するものとして利用されてはならない。

 ここでは、「法的能力と判断能力とは異なる概念であり、判断能力の不足を理由に法的能力を否定してはならない」としている。

ここでの「判断能力」の英語標記は”mental capacity”である。通常”mental capacity”は、「意思能力」と訳される。しかしわが国では、「意思能力」は「あるかないか」のどちらかであって「不足する」という概念を含まない。「判断能力」と「意思能力」の区別は、一般意見書の理解にとって重要であるので、以下説明する。

我が国では、判例により「意思能力を欠く人の法律行為は無効である」とされてきた(8)20153月に国会に上程された民法改正案には、次の条文が加えられている(9)

3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする(10)

この条文は、全ての国民に適用される。ここで「意思能力」とは、従来「自己の行為の結果を判断できる能力」と理解され、同じ個人でも、行為により、また酩酊時のように、ときにより変動するが、「あるかないか」のどちらかである(11)

しかし、「判断能力の不足を、意思決定支援で高め補い、法的能力の行使を支援する」という、権利条約123項の新しい考え方にとって、mental capacity”を、「不足」という「程度」を表す用語として用いることは不可欠な用法である。

そこで本稿では、”mental capacity”の和訳について、「あるかないか」を表す場合には「意思能力」を、「程度」を表す場合には「判断能力」を用いることする(12)

 

●法的能力否定の理由

para.15には次の記述がある。

15.これまで委員会が審査してきた締約国の報告の大半において、判断能力と法的能力の概念は同一視され、多くの場合、認知障害又は心理社会的障害により意思決定スキルが低下していると見なされた者は、結果的に、特定の決定を下す法的能力を排除されている。

これは単純に、機能障害という診断に基づいて(状況に基づくアプローチ)、あるいは、否定的な結果をもたらすと考えられる決定を本人が行っている場合(結果に基づくアプローチ)、もしくは、本人の意思決定スキルが不足していると見なされる場合(機能に基づくアプローチ)に決定される。機能に基づくアプローチでは、判断能力の評価と、その結果としての法的能力の否定が試みられる。ある決定の性質と結果を理解できるかどうか、及び/又は関連情報を利用したり、比較検討したりできるかどうかによって決まることが多い。これらのアプローチのすべてにおいて、障害及び/又は意思決定スキルが、個人の法的能力を否定する合法的な理由と見なされている。(条約)12条は、法的能力に対するそのような差別的な否定を許容するものではなく、むしろ、法的能力の行使における支援の提供を義務付けるものである。

para.13では、「判断能力の不足を理由に法的能力を否定してはならない」とした。para.15は、大半の締約国において、機能障害による判断能力の低下が、法的能力を否定する合理的な理由とみなされていると批判している。

各国が法的能力を否定する理由には、機能障害(認知障害又は心理社会的障害)があること、否定的な結果をもたらす決定を本人が行うこと、意思決定スキルが不足していること(ある決定の性質と結果を理解できないこと、関連情報を利用や比較検討できないことなど)があるとしており、それらを「法的能力の行使における支援を提供すべき条件」として活用するよう述べている(13)

 

●「最善の利益」から「意思と選好」へ

para.17は次のように述べている。

17.法的能力の行使における支援では、障害のある人の権利、意思及び選好を尊重し、決して代行決定を行うことになってはならない。「支援」とは、さまざまな種類と程度の非公式な支援と公式な支援の両方の取り決めを包含する、広義の言葉である。たとえば、障害のある人は、1人又はそれ以上の信頼のおける支援者を選び、特定の種類の法的能力の行使を援助してもらうことや、コミュニケーション支援などの支援を求めることができる。また、特に意思と選考を表明するために非言語型コミュニケーション形式を使用している者にとっては、従来にない多様なコミュニケーション方法の開発と承認も支援となり得る。

ここに示す「支援者による法的能力の行使への援助」には、後に述べる法定代理人も含まれていると思われる。

また、コミュニケーション支援も含めていることは、意思決定支援にとって重要な指摘である。「非言語型コミュニケーション」とは、言語・文字に翻訳可能な点字・手話・指文字やコンピューターを用いた言語表現などと異なり、絵カード・身振り・表情や行動などのように、直接に言語への置き換えをしにくいコミュニケーションである。この非言語型コミュにケーションを用いる人の意思表現は、それを受け止める支援者により大きく左右される。

また、para.21は次のように述べている。

21. 著しい努力がなされた後も、個人の意思と選好を決定することが実行可能ではない場合、「意思と選好の最善の解釈」が「最善の利益」の決定に取ってかわらなければならない。「最善の利益」の原則は、成人に関しては、(条約)12条に基づく保障ではない。障害のある人による、他の者との平等を基礎とした法的能力の権利の享有を確保するには、「意思と選好」のパラダイムが「最善の利益」のパラダイムに取ってかわらなければならない(6)

 「最善の利益」原則は、児童の支援にとっては重要な原則であるが、成人にとっては、本人の行為能力を排除することと結びついているため、ここではそれを否定して、「本人の意思と選好」へのパラダイム転換を求めている。

ただし、イギリス意思能力法4条は、本人の最善の利益として考慮すべき内容として「本人の過去・現在の要望・感情、本人の信念・価値観など」をあげているが、これらは「本人の意思と選好」を解釈するときに役立てることができよう。

 

【3.意思決定支援としての法定代理制度】

 

●支援つき意思決定制度の条件

上述したように、para.17において、法的能力の行使における支援の1つとして、「支援者による法的能力の行使への援助」をあげている。またpara.27の「代行決定制度の定義」に該当しない支援制度が求められる。

para.29の前文は、次のように述べている。

29. 支援付き意思決定制度は個人の意志と選好に第一義的重要性を与え、さまざまな支援の選択肢から成る。支援付き意思決定システムは、障害のある人の生活を過剰に規制するものであってはならない。支援付き意思決定制度は、多様な形態をとる可能性があり、それらすべてに、条約12条の順守を確保するための特定の重要な規定が盛り込まれなければならない。それには、以下が含まれる。

 以下、para.29の各項目に沿って、「支援つき意思決定制度」に必要な条件を考察する。

(a) 支援付き意思決定は、すべての人が利用可能でなければならない。個人の支援ニーズのレベル(特にニーズが高い場合)が、意思決定の支援を受ける上での障壁となってはならない(14)

ここでは、「意思決定支援」が、支援つき意思決定制度に不可欠であること、支援ニーズの高い人も対象とすべきことが確認できる。

(c) 個人のコミュニケーション形態は、 たとえそのコミュニケーションが従来にないものであっても、 あるいは、 ほとんどの人に理解されないものであっても、 意思決定の支援を受ける上での障壁となってはならない。

 法律行為は言語により行われるため、非言語型コミュニケーションを使用している障害者が独力で法律行為を行うことは不可能であり、本人を代理して法律行為を行う「法定代理」の仕組みが不可欠である。ここでは、その法定代理が、意思決定支援として位置づけられるべきことを示している。

(d) 個人によって正式に選ばれた支援者の法的承認が利用可能であり、かつ、これを利用する機会が与えられなければならず、国は、特に孤立しており、地域社会で自然に発生する支援へのアクセスを持たない可能性がある人々のために、支援の創出を促進する義務を有する。これには、第三者が支援者の身元を確認する仕組みと、支援者が当事者の意志と選好に基づいた行動をしていないと第三者が考える場合、支援者の行動に対して第三者が異議を申し立てられる仕組みを含めなければならない。

ここでは、「個人によって正式に選ばれた支援者の法的承認」および「地域社会で自然に発生する支援へのアクセスを持たない可能性がある人々のために」の記述から、公的機関から選任された法定代理人制度が想定されていることが理解できる。また、本人もこの「法定代理人」を推薦できる仕組みを求めている。ただし「利用可能」とあるので、必ず「法定代理人」に選任しなければならない訳ではない。また、第三者の異議申し立ての制度も求めている。

(g) 人は、いかなる時点でも、支援を拒否し、支援関係を終了し、あるいは変更する権利を持つものとする。

 ここでは、代行決定制度の定義の「本人の意思に反して支援者を任命する制度」に該当しないよう、本人の拒否権を規定している。なおpara.29には、法定代理人選任への「本人による同意」を求める記述がない。これは、「同意」の意思を表現できない重度の障害者も「法定代理人」を利用できるようにするためであろう。

(h) 法的能力と、法的能力の行使における支援にかかわるあらゆるプロセスについて、保障が設けられなければならない。保障の目標は、個人の意志と選好の尊重を確保することである(6)

ここでは、「法定代理人」制度に、条約124項に規定する保障、つまり「@本人の権利・意思・選好の尊重、A利益相反の回避・不当な影響の排除、B本人の変動する状況への適合、C短期間の適用、D定期的審査」が求められることを示している。

(i) 法的能力の行使における支援の提供は、判断能力の評価に左右されるべきではない。法的能力の行使における支援の提供では、支援のニーズに関する新しい非差別的な指標が必要とされている。

ここでは、Para.15を受けて、「判断能力の評価」により「意思能力」がないと評価されれば「法的能力の行使における支援」が提供されないという代行決定制度を批判し、その上で、支援のニーズに関する新たな指標を求めている。

障害者が、ある法律行為をするときに、本人の判断能力が不充分なときには、意思決定支援が必要となる。そのとき、本人の判断能力に応じて、意思決定支援のニーズは異なる。そのための指標については、後述する

 

●意思決定支援としての法定代理制度の条件

 以上、para.29に沿って、「意思決定支援としての法定代理」に求められる条件を検証してきた。

なお、「代理」の概念自体には、「本人の意思や選好に基づく」という義務は含まれていない。任意代理の場合は、本人との契約時に、本人意思に基づくことが確定する。しかし、法定代理の場合は、本人からの依頼ではないため、代理人が「本人のために」と判断すればよいこととなっている。そのため、para.29における「法定代理」については、誤解を避けるために「意思決定支援としての法定代理」のような、明確な表現を用いる必要がある。

 para.29による「意思決定支援としての法定代理」の条件を整理すると、次のようになる。

【意思決定支援としての法定代理制度の条件】

1)本人の法的能力を排除しないこと。

2)本人の意思と選好(またはその最善の解釈)に基づき支援すること。

3)本人推薦の支援者を法定代理人に選任できる規定を設け、本人が法定代理人を拒否し、支援関係を終了し、変更する権利を持つこと。

4)支援ニーズに合った意思決定支援をすること。

5)第三者が、法定代理人の行動に対して、異議申し立てできる仕組みを設けること。

6)条約124項に規定する保障(@利益相反の回避・不当な影響の排除、A本人の変動する状況への適合、B短期間の適用、C定期的審査)を適用すること。

 

【4.意思決定支援 試論】

 

意思決定支援の定義

以上を踏まえて、法的能力の行使への支援における意思決定支援を定義すると、次のようになろう。ただし、日常生活での事実行為や医療行為などの、法律行為以外の分野まで含める意思決定支援の定義については、さらに検討する必要があろう。

意思決定支援とは、機能障害により判断能力に困難のある人が、他の人と平等に、日常生活や社会生活など生活のあらゆる場面において、自らの意思と選好に基づいて法的能力を行使して行動できるように、本人が判断能力を高めるよう支援すると共に、判断能力がなお不足する場合にはそれを補う支援である。この支援は、公式・非公式の様々な種類と程度の支援を含み、支援のニーズに応じて誰でも利用できるように、国が責任をもって提供しなければならない。

 なお、意思決定支援が必要な条件にはpara.15で述べたように、ある決定の性質と結果を理解できないこと、関連情報を利用や比較検討できないこと、自己にとって極めて不利益となる判断をすることなどが含まれるが、自己の意思決定を伝えられないことも含むべきであろう(15)

 

●支援のニーズに応じた意思決定支援

障害者が、ある法律行為をするときに、必要な判断能力に対して、本人の判断能力が十分にあれば、自己決定によりその行為を行うが、判断能力が不充分なときには、意思決定支援が必要となる。

一定の範囲の法律行為を指定して、代理権を付与された法定代理人は、その範囲内の法律行為について、意思決定支援を行う。そのとき、本人の判断能力に応じて、意思決定支援のニーズは異なる。その支援のニーズの指標として、次の支援レベルが考えられる。

@本人行為レベルの思決定支援

法定代理人は、まず本人が自らその法律行為ができるように、支援をしなければならない。また、その支援の結果であったとしても、本人が自らその法律行為を行えるときには、法定代理人は、代理行為を控えなければならない。

A共同行為レベルの意思決定支援

本人が意思決定支援を受けても、自ら法律行為を行えないか、あるいは自らその行為を行うことに不安があり、かつ本人の意思と選好に基づいた法定代理人の提案に、本人が同意する場合には、本人と法定代理人が共同して、法律行為を行う。このとき、本人に意思能力があれば本人による行為、なければ法定代理人による行為とみなす。

B代理行為レベルの意思決定支援

本人が意思決定支援を受けても自ら法律行為を行えず、また本人が法定代理人の提案に、賛否の意思を表明できない場合には、法定代理人は、本人の意思と選好の最善の解釈に基づいて代理行為を行う。

 ただし、どのレベルの支援が必要となるのかは、同じ人でも、対象となる行為により、またそのときにより異なることに留意する必要がある。

 

●意思決定支援の要素

意思決定支援の定義で述べたように、意思決定支援には、@「判断能力を高める支援」、A「判断能力を補う支援」の2つの要素がある。また、「判断能力を高める支援」には「情報提供の支援」と「エンパワメントの支援」があり、「判断能力を補う支援」には、「本人同意による意思補充支援」と「本人意思解釈による意思補充支援」がある。

なお、「意思疎通支援」は、「意思決定支援」にとって、どのレベルの支援であっても、またどの要素の支援であっても、前提として必要不可欠な要素である。

これらの支援の要素をまとめると、次のようになる。

意思決定支援の要素

判断能力を高める支援

(法定代理人でなくてもできる)

情報提供の支援

エンパワメントの支援

判断能力を補う支援

(共同行為・代理行為レベルで必要)

本人同意による意思補充支援

本人意思解釈による意思補充支援

意思疎通支援(すべてに必要)

 

●本人行為レベルの意思決定支援

このレベルでの「判断能力を高める支援」において、まず重要なのが「情報提供の支援」である。本人が理解できるようにわかりやすく情報を提供する方法は、本人によりさまざまである。この支援は、意思疎通支援でもある。

例えば、日常生活の法律行為は自己決定できる人が、重大な契約については独力でできず、わかりやすい説明を受けて自分で判断し契約する場合や、また重度の知的障害者が、日常生活での買い物などで、わかりやすく説明されれば自ら行うことができる場合などが該当する。

「判断能力を高める支援」において次に重要なのは、「エンパワメントの支援」である。誰でも失敗を通して学ぶのであり、自己に不利益な選択が直ちに問題となる訳ではない。しかし、機能障害とそれまでのさまざまな経験から、全財産を失うとか、生命にかかわるような、自身に極めて重大な不利益をもたらす行為を選択する場合がある。

この場合も、まず本人が判断しやすいように、わかりやすい情報提供を行うことが重要であるが、それだけでは解決できないときも多い。まず本人がそのような選択をしようとするときの「真意」(本当の思い)をくみ取ることが大切であり、本人にとってあまり不利益とならない方法で、その「真意」が実現できないかを、本人と一緒に考え、最終的には本人が心から納得して、本人にとってよりよい意思決定をするというような支援が必要である。この支援には、本人と支援者との相互の信頼関係が不可欠であり、福祉的支援や、本人の生活場面でのさまざまな支援が必要であろうし、必ずしも法定代理人を必要としないであろう。この点については、ニュージーランドにおけるファミリーグループカンファレンスや、イギリスにおける独立代弁人など、様々な先進的取り組みから学ぶべきことが多い(16)

これらの「判断能力を高める支援」により、本人が自ら法律行為を行うときは、「判断能力を補う支援」は不要である。

 

●共同行為レベルの意思決定支援

 ある法律行為について、本人の判断能力を高めるように、情報提供やエンパワメントの支援をしても、なお本人の判断能力が不足する場合には、「判断能力を補う支援」が必要となる。この「判断能力を補う支援」において、法定代理人が本人の意思と選好を考慮して、具体的な提案を行い、本人がそれに同意する場合に、法定代理人と本人が共同して、法律行為を行う。この支援を「本人同意による意思補充支援」という

例えば、あるグループホームの利用契約について、複雑な文章理解の困難な知的障害者が、本人の意思と選好に基づいて法定代理人が示す提案に対して、納得して同意し、本人と法定代理人が、契約書に共同で署名する場合などが該当する。

この場合の共同署名は、法定代理人が本人の代理人であるため、2者による「共同契約」や「共同決定」とみなすことは、困難と思われる(17)

本人が独力で契約できないときには、本人の意思能力はないので、本人の署名は有効ではない。この場合は法定代理人の署名が有効であり、本人の署名は、本人が法定代理人の代理契約に同意を表示するものと理解できよう。

一方、本人が独力で契約できる意思能力があるときには、本人の署名が有効であって、契約は本人が行い、法定代理人の署名は、念のため本人に対して同意を表示するものと理解できよう(18)

現実には、その法律行為について、本人の意思能力があるかどうかは、はっきりしないことが多い。そのため、以上のように解釈することができれば、「共同行為」方式は現実的な方法であると思われる(19)

なお、以上のような解釈に問題はないか、また本人と法定代理人による「共同決定」と解釈できるないかどうかについて、なお検討を要すると思われる。

 

●代理行為レベルの意思決定支援

ある法律行為について、「判断能力を高める支援」によっても本人の意思が明確でなく、また「本人同意による意思補充支援」によって、本人の意思と選好に配慮した具体的な提案を法定代理人がしても、本人が賛否の意思を表明できないときには、本人の「意思と選好の最善の解釈」に基づいて、法定代理人がさらなる「判断能力を補う支援」により、代理で法律行為を行う。この支援を「本人意思解釈による意思補充支援」という。

例えば、最重度知的障害者や重症心身障害者のように、言語型コミュニケーションによる意思表示が困難で、法律行為についての明確な意思表示ができない場合が該当する。ただし、非言語型コミュにケーションによっても、ある程度の意思は明確になっていくので、「判断能力を高める支援」は重要である。

 

●支援のニーズと支援の要素

 以上を、図で示すと、以下のように考えられる。ただし、同じ人でも、日常生活場面や、重要な契約場面など、その行為により、またそのときにより、必要な意思決定支援のレベルは変動することに留意する必要がある。

意思決定支援の

レベル

  その行為に必要な判断能力  

契約行為者

0%          ⇔          100

自己決定

支援を受けない判断能力

本人

支援つき意思決定

本人行為

レベル

支援前の判断能力

支援により高められた判断能力

本人

共同行為

レベル

支援前の

判断能力

支援により高められた判断能力

本人または

法定代理人

支援により補充された判断能力

代理行為

レベル

支援前の判断能力

支援により高められた判断能力

支援により補充された

判断能力

法定代理人

以上によって、para.29による「意思決定支援としての法定代理」の条件を満たし、かつ法定代理人がここで述べた意思決定支援を行えば、判断能力に困難のある障害者の法的能力行使への支援として、一般意見書の求める「支援つき意思決定制度」を構築することが可能であろう。

 

【5.成年後見制度の改革 試論】

 

●成年後見類型と保佐人の同意権・取消権の廃止

 次に、わが国の成年後見制度を、「意思決定支援としての法定代理制度」に改革する方策を述べたい。

 まず、成年後見類型の審判と、保佐人への同意権・取消権付与審判に対して、本人は同意権も拒否権も有しないため、本人の意見陳述の機会があるとはいえ、本人の意思に反して支援者が任命される可能性がある。これは、「代行決定制度の定義」の「本人意思に反して支援者を任命する制度」に該当する。

成年後見人は、本人の日常生活に関する行為以外の法律行為への取消権を、また保佐人は、本人の重要な契約行為及びその他の行為への同意権と取消権を、それぞれ有する。成年後見人・保佐人の有する取消権は、本人の行為能力を全面的に排除する訳ではなく、本人は法律行為ができるし、成年後見人・保佐人による取消を受けない限り、その行為は有効である。しかし、成年後見人・保佐人による取消が行われれば、本人の行為能力が一方的に排除されることは明らかである。これは、「代行決定制度の定義」の「本人の法的能力を排除する制度」に該当する。

成年後見類型の審判は「事理弁識能力を欠く常況にある者」に対して、また保佐類型の審判は「事理弁識能力が著しく不十分である者」に対して行われる。この規定はいずれも、本人が時により、特定の法律行為について、意思能力を有する場合があり得ることを前提としている。「本人が意思能力を有しないときの契約は無効」という一般原則は、誰にでも適用される。しかし、成年後見人・保佐人の有する取消権は、本人に意思能力があるときにも、その行為を取り消すことができるため、条約22項の「他の者との平等を基礎として法的能力を享有する」規定に違反する。

成年後見人の有する包括的代理権は、ただちに本人の行為能力を制限するものではなく、本人も法律行為が可能である。しかし、後見人が代理権を行使した後には、その法律行為を本人が行うことができないため、結果として被後見人の行為能力を包括的に制約する。本人に意思能力があるときにも、その行為が後見人の代理権によって制約されるため、この包括的代理権は、条約122項の「他の者との平等を基礎として法的能力を享有する」規定に違反する。

以上より、成年後見類型および保佐人の同意権・取消権の規定は廃止されるべきである。

 

●保佐類型の補助類型への統合

補助人と保佐人への代理権付与については、本人の同意が前提となっている。para.29では、法定代理人の選任に当たって、「同意」の意思を表現できない障害者に配慮して、本人の同意を条件とせず、その代わりに、本人が法定代理人を拒否し、支援関係を終了・変更する拒否権をもつという条件を求めている。

 現在、成年後見制度改革については、@保佐類型を補助類型に統合する案と、A保佐類型を同意意思表示ができない人に、補助類型を同意意思表示ができる人に適用する案が提案されている。しかし、成年後見制度に類型を設けている国では、より保護レベルの高い類型に利用が偏るという共通の傾向がある(20)

従って、本稿では、成年後見類型を廃止し、保佐類型を補助類型に統合して本人の同意権を廃止する新井誠説(21)をもとに、上記の「意思決定支援」を前提として、para.29による「意思決定支援としての法定代理」の残された次の条件を満たすように改革することを提言する。なお、その具体化については、今後の検討課題としたい。

1)本人推薦の支援者を法定代理人に選任できる規定と、本人が法定代理人を拒否し、支援関係を終了・変更できる規定を設けること。

2)第三者が法定代理人の行動に対して、異議申し立てできる仕組みを設けること。(22)

3)条約第12条第4項に規定する保障(@利益相反の回避・不当な影響の排除、A短期間の適用、B定期的審査)を適用すること。(23)

 

●補助人の同意権・取消権の検討

 現行制度では、特定の法律行為について、補助人にも「同意権・取消権」が付与されることがある。被補助人の場合は、本人に重大な不利益を及ぼすような契約を行う可能性が実際にあり得るため、この継続を望む意見が強い。補助人への「同意権・取消権」付与は、前記の条件に加え、本人が同意する条件を加えるなら、本人の法的能力を排除することとはならないと思われるため、継続する。

一方、2015年に国会に上程された民法改正案には、「意思能力を有しないときの契約は無効」の条項が加えられている。これが決定され、本人が行った自己に不利益な法律行為について、本人単独、本人と補助人との共同、あるいは補助人が代理で、事後に取り消す事ができるように簡易な手続きが定められれば、補助人の「同意権・取消権」に代わる保護方法となり得るとも考えられ、なお検討の課題としたい。

 

【6.あとがき】

本稿では、成年後見制度の民法規定に関する範囲に絞って検討を行ったが、一般意見書は、司法へのアクセス、強制的な精神科入院や治療からの自由の権利、どこで誰と生活するかを選択する権利、法的能力の行使において合理的配慮を受ける権利など、障害者の生活に及ぼす全ての領域について、法的能力行使への支援を求めていることに留意したい。

 本稿は、日本成年後見法学会における筆者の報告 (24)に、同学会制度改正研究委員会での意見により修正を加えた試論である。本稿の作成に当たってさまざまなご教示をいただいた、同学会の新井誠会長、同委員会の赤沼康弘委員長をはじめ委員諸氏に心から感謝の意を表したい。同委員会の検討はまだ行われており、本稿はあくまでも私論であるが、今後の成年後見制度の改革に役立つことができれば幸いである。

 

 

【参照】

(1) 条約12条は次のように定めている。ただし5項は省略した。

12条[法律の前にひとしく認められる権利]

1項 締約国は、障害者が全ての場所において法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する。

2項 締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。

3項 締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用する機会を提供するための適当な措置をとる。

4項(概要のみ) 法的能力の行使に関する措置において濫用を防止するための保障は次の通りである。@本人の権利・意思・選好の尊重、A利益相反の回避・不当な影響の排除、B本人の変動する状況への適合、C短期間の適用、D定期的審査。

 外務省訳「障害者の権利に関する条約」参照。125項は省略した。

(2) 本稿では、公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会の提供する情報サイト「障害保健福祉研究情報システム」(下記)による一般意見書和訳(以下「原訳」という)を使用するが、その中に不適切な和訳があるため、それを適訳に置き換えて論を進めることとする。

http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/rightafter/crpd_gc1_2014_article12_0519.html

(3)para.7には、「障害のある人は、後見、保佐や強制治療を認める精神保健法などの代行決定制度の下で、多くの領域において差別的な方法で、法的能力の権利を否定されてきた」との記述がある。原訳では”guardianship , conservatorship”を「後見人制度」と訳しているが、日本成年後見法学会制度改正研究委員会における清水恵介委員の指摘により、ここでは「後見、保佐」を適訳とした。我が国の成年後見制度には補助類型や任意後見制度もあり、これらは本人同意を前提とするため法的能力が排除されるとは言いきれず、「成年後見制度」全体が否定されているのではない。

(4)原訳では、”substitute decision-making”を「代理人による意思決定」と訳したため、「一般意見書は代理決定を否定している」との誤解が生じた。民法における「代理決定」は、「本人のために、別の人が、その権限内で法律行為を行い、その効果が本人に帰属する」ことであり、本人が法律行為を行うことができるし、それを代理人に取り消されることもないため、本人の行為能力は奪われない。代理には、「任意代理」と「法定代理」があるが、「任意代理」は、本人から委任された権限内で代理人が法律行為を行うことであり、広く一般に利用されている。他の者との平等の観点から、障害者がこれを利用できることは当然であり、一般意見書が「代理決定」自体を否定することはあり得ない。さらに、para.38には、「締約国は、障害のある人の、他の者との平等を基礎とした司法へのアクセスを確保する義務を要する。締約国は、障害のある人が、他の者との平等を基礎として法定代理人(legal representation)を利用できるようにしなければならない。」との記述がある。これは、司法手続きにおける代理人を指しているようだが、ここでは「法定の代理制度」が積極的に肯定されている。以上から、”substitute decision-making”を「代理人による意思決定」と和訳することは明らかに誤りである。一方「代行」という単語には、2つの用法がある。第1の用法は、申請代行など、代行者が意思決定をしない場合である。民法では、本人に代わって、法律行為を行うときに「代理」、事実行為のみを行うときに「代行」という。第2の用法は、職務代行など、本人の決定権を排除または中止して、代行者が主体者となって意思決定する場合である。“substitute decision-making”は、「本人の法的能力を排除する」という特徴をもつので、その訳語として、第2の用法により、「代行決定」を本稿では用いる。

(5)「意思」は”will”の、「選好」(好み)は”preferences”の訳である。「意思」には「願いや意向」も含み、「選好」と厳密に分けることはできない。

(6) 清水恵介訳による。

(7)イギリス意思能力法が、判断能力が不足するときの行為能力を否定した「代行決定制度」であることを示す条文の概要は次の通りである。

1条 能力を欠くと確定されない限り、人は能力を有すると推定されなければならない。本人の意思決定を助けるあらゆる実行可能な方法が功を奏さなかったのでなければ、人は意思決定ができないとみなされてはならない。能力を欠く人のための行為や意思決定は、本人の最善の利益のために行われなければならない。

2条 ある事柄に対して意思決定をすべきときに、独力で意思決定できない場合、その人はその事柄について能力を欠くと定義される。

3条 人は次の場合に独力で意思決定ができないとされる。@当該意思決定に関連する情報を理解できない、Aその情報を保持できない、Bその情報を利用又は比較衡量できない、C自己の意思決定を、口頭、手話又はその他の手段で他人に伝えることができない。

4条 本人の最善の利益を判断するに当たっては、意思決定者は単に次の事実のみに基づいて判断してはならない。(以下略)

16条 本人の身上福祉又は財産管理に関する事項について能力を欠く場合に、裁判所は法定代行者を任命し、当該事項に関する意思決定を代行させる。

20条 法定代行者は、ある事項に関して本人に能力があるときには、本人に代わって意思決定を行う権限を有しない。

 2条では、意思決定支援をつくしても障害者が意思決定できないときに、その行為について「能力」(capacity)を欠くとされる。この「能力」は「意思能力」を指している。しかし1条の「能力」は「行為能力」を指しており、本人が「能力」を欠くときには、4条により、本人に代わって他人が「意思決定者」となる。つまり、意思決定支援をつくしてもなお独力で意思決定できないときには、本人の「行為能力」が排除されて、法定代行者などが「意思決定者」となる。これは「代行決定制度の定義」に該当している。わが国にとって、この法律から学ぶことは多いが、この根本問題を理解した上で採り入れないと、新たな混乱を生じる可能性がある。新井誠監訳・紺野包子翻訳『イギリス2005年意思能力法・行動指針』(民事法研究会、2009年)による。ただし”a deputy”を「法定代理人」と訳しているが、本人に代わる意思決定者となるので、筆者において「法定代行者」に代えた。

(8) 大審院明治38511日判決・大審院民事判決録11706頁。

(9)http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00175.html

(10)ここでの「無効」は、従来の判例解釈と同じく、本人のみが無効と主張できる「相対的無効」であるとされる。

(11)日本の法律用語の「能力」は、「あるかないか」を表す場合と、程度を表す場合の両方に用いられる。例えば「法的能力・権利能力・行為能力・意思能力」における「能力」は、「あるかないか」を表す。一方、成年後見制度の「事理弁識能力」における「能力」は、「不十分、著しく不十分」というように程度を表す。

(12) “mental capacity”を常に「意思能力」と和訳して、「程度」を表す用法を加える案もある。この場合は、「意思能力が不足する」という表現もできる。しかしこれは従来の法律用語を大きく変更することになり、概念の混乱が生じる可能性があるように思える。「程度」を表す場合の“mental capacity”について、原訳は「意思決定能力」と訳しているが、”decision-making”の和訳が「意思決定」なので、紛らわしい。「判断能力」という用語は、成年後見制度で用いられる「事理弁識能力」を説明するために用いられることもあるが、法律用語として定まった用い方ではない。そこで、ここでは一応「判断能力」を用いることとするが、なお検討を要する課題である。

(13) Para.13において「判断能力」と「意思決定スキル」は同一とされた。para.15の前半の「判断能力と法的能力の概念は同一視され」と「意思決定スキルが低下していると見なされた者は、結果的に、特定の決定を下す法的能力を排除されている」の表現は、どちらも「判断能力の不足する者は法的能力を排除されている」と述べているものと理解できる。しかし後半では、法的能力が排除される例として、@状況に基づくアプローチ(機能障害という診断に基づく)、A結果に基づくアプローチ(否定的な結果をもたらすと考えられる決定を本人が行っている)、B機能に基づくアプローチをあげ、「機能に基づくアプローチでは、判断能力の評価と、その結果としての法的能力の否定が試みられる。ある決定の性質と結果を理解できるかどうか、及び/又は関連情報を利用したり、比較検討したりできるかどうかによって決まることが多い。」と記述されている。つまり「否定的な結果をもたらすと考えられる決定を本人が行うこと」が、前半の「判断能力」には含まれ、後半の「判断能力」には含まれないように見える。しかし、後半は、法的能力を排除する各国の方法を並列的に列挙したものであって、「判断能力」の範囲を説明した文章ではない。para.13para.29(i)の記述から、一般意見書は「判断能力」を、広く「否定的な結果をもたらす決定をするかどうか」を含めた概念としていると理解するのが妥当であろう。

(14)「意思決定支援」は”support in decision-making”の訳語である。

(15)イギリス意思能力法では、意思能力を「@その行為に関する情報を理解できるか、Aその情報を保持できるか、Bその情報を比較検討できるか、C自己の意思決定を伝えることができるか」で判断するとしており、「賢明でない判断をすること」は意思能力の概念に含まないとしている。それは、意思能力がないときは「無能力」として「代行決定」に移行する法体系であり、単に賢明でない判断をするだけであれば、意思決定支援の対象としているためであろう。それに対して、「危険性が理解できないため、あるいは情報を比較衡量できないためになされる意思決定は、それ自体が能力判定の対象となり得ます。」(上記『イギリス2005年意思能力法・行動指針』115頁)として、「否定的な結果をもたらす決定をするかどうか」も意思能力の判断の対象としている。わが国の民法でも、「事理弁識能力」には「否定的な結果をもたらす決定をするかどうか」を含んでいると考えられる。

(16)この「エンパワメントの支援」を、筆者は従来「意思形成の支援」と表現してきたが、他者による本人意思への介入という誤解が生じやすいため、表現を変えることとする。 柴田洋弥「知的障害者等の意思決定支援について」発達障害研究343号(日本発達障害学会、2012年)参照。

(17) 1994年のスウェーデン「特定の機能障害のある人々に対する支援とサービスに関する法律」において、「共同決定」が、知的障害者が支援者とともに決定する方法として条文化された。この場合は、支援者が本人の代理人ではないため、「共同決定」とみなすことが可能であると考えられる。この点については、なお検討が必要である。吉川かおり監修・グンネル・ヴィンランド著・尾添和子訳『重度知的障害のある人と知的援助機器』(大揚社発行、2009年)「監修者前書き」17頁。

(18)法定代理人への代理権付与に当たっては、「必要性の原則」により、本人が独力で行うことができない法律行為に限定して、付与すべきである。しかし現実問題として、法定代理人に、全くの個別行為ごとに代理権を付与することは不可能であるため、ある程度の法律行為の範囲を定めて代理権を付与するしかない。すると具体的行為によっては「本人に意思能力があるのに法定代理人に代理権が付与される」という事態が生じることになる。例えば「重要な財産に関する行為」を対象として法定代理人に代理権を付与しても、「重要な財産」にはさまざまな財産が含まれるため、行為によっては、また時によっては、本人が独力で法律行為を行えることがあり得る。

(19)イギリス意思能力法を参考に「ある法律行為に関して本人に意思能力があるときには、法定代理人はその事項について代理決定を行う権限を有しない」という規定を設けることも考えられる。本人に意思能力があるにもかかわらず法定代理人が代理行為をした場合には「無権代理」となる。すると、契約相手方は、契約の際に本人の意思能力の有無を確認しないと安心して契約できないということになるため、これも不適当である。

(20)ドイツのフォルカー・リップ教授は、2015411日の来日講演で、オーストリアの例を挙げ、成年後見制度において類型に分けると、どうしてもより保護レベルの高い方の類型に偏る結果となるため、類型に分けない方がよいと指摘した。

(21) 新井誠「補助類型一元化への途」実践成年後見5062頁以下(2014年)。

(22)第三者として補助監督人制度を拡充することも考えられる。

(23)これらは、成年後見制度運用の課題である。

(24)柴田洋弥「意思決定支援に基づく成年後見制度改革試論−障害者権利条約12条についての権利委員会意見書をめぐって−」『成年後見法研究』民事法研究会発行、12149頁〜164頁。

 

【ご意見を下さい】

柴田洋弥

日本自閉症協会常任理事

日本成年後見法学会制度改正研究委員会委員

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